「切ないコード」の正体とは?|なぜこの和音を聴くと胸が締め付けられるのか

作曲

音楽理論の勉強をしているとよく、メジャーコードは明るい、楽しげな雰囲気」「マイナーコードは暗い、切ない雰囲気」と言われているのを目にしますよね。

ではいったい、切ないコードとはなんなのでしょうか?なぜ切なく感じるのでしょうか?

この記事では、その謎を考察していきます!

目次

  1. 「切ないコード」って本当に存在する?
  2. 「マイナー=切ない」だけでは説明できない
  3. 切なさを作る要素
  4. 「IV →IVm」がなぜ切なく聴こえるのか
  5. 半音の動きが「切なさ」を生む
  6. 「切なさ」はコードだけで決まらない
  7. メロディが「切なさ」を決める
  8. 実際に「切ないコード進行」を作ってみる
  9. 「切ないコード」を作るための考え方
  10. まとめ

1. 「切ないコード」って本当に存在する?

まずはみなさんの先入観を捨てて考えてみてください。

「Amを使えば切なくなる」「マイナーコード=悲しい」

これは完全には正しくありません。

例えば、こんなコード進行を考えてみましょう!

C → F → G → C

これは、ほとんどの人が明るく安定して聴こえやすいはずです。

一方、Am → F → C → Gというコード進行も同じCメジャーのダイアトニックコードだけで構成できます。Amは暗いはずですが、コード進行的にはそんなに暗く感じないってことですね。

それなのに、後者はどこか哀愁・切なさ・エモさを感じやすいのです。。。

「じゃあ切なさは一体どこからきてるの!?」となってしまいますよね?

2. 「マイナー=切ない」だけでは説明できない

ここで、メジャー→ 明るい、マイナー→ 暗いという単純な図式を一度疑ってみましょう。

実際には、

  • メジャーでも切なく聴こえる
  • マイナーでも悲しくない
  • 同じコードでも文脈によって印象が変わる

ということがあるからです。

3. 切なさを作る要素

ここからが、メインパートです!

① 短調・短3度

まずは基本です。簡単なメジャーコードとマイナーコードを比較してみましょう!

Cメジャー:C–E–G

Cマイナー:C–Eb–G

この二つのコードで違うのは、真ん中のEとEbですね。

このE → Ebという短3度への変化が、メジャーとは異なる陰影を作ります。

ただし、これだけでは「切なさ」の説明として不十分です!

② 「解決したいのに、完全には解決しない」

音楽では、緊張 → 解決が基本的な気持ちよさを作ります。

ところが、切ないコード進行では、緊張感を残したまま進むことがあります。

例えば、Am → F → C → Gを、Am→F→C→G→Am……と循環させると、

GからCへ行けば解決できるのに、そこへ行かずにAmにいくことによって最後まで完全に終わらない、循環するコード進行になっています。

この「まだ終わっていない感じ」が、切なさにつながります。

4. 「IV →IVm」がなぜ切なく聴こえるのか

ここで、IV →IVmという切なさの代表格みたいな動きについて考えてみましょう。

key:Cメジャーなら、F → Fmの動きですね。

F:F–A–C

Fm:F–Ab–C

つまり、IVコードとIVmコードではA → Abと、たった1音が半音下がるだけなのです!

にもかかわらず、これだけで一気に陰影が生まれます。

さらに、C → F → Fm → Cとすると、「明るい→安定→一瞬陰る→帰ってくる(安定)」という感情の動きになります。

この「明るい世界に一瞬だけ影が差す」という感覚が、「切ない」と感じる理由の一つとして考えられるわけです。

5. 半音の動きが「切なさ」を生む

ここからは少し深ぼって考えてみようと思います。

先ほどまでで「何やら切なさには半音の動きが関係しているらしいぞ」ということがわかってきましたね!

そこで、人間が音程をどう感じるかという観点から、半音進行を扱っていこうと思います。

例えば、

A → Ab

E → Eb

のような動きです。

半音同士は非常に距離が近いため、「ほとんど同じなのに、少しだけ違う」という感覚を作るはずです。

この「わずかな変化」が、コード全体の印象を大きく変えると考えられるのです!

クリシェ、借用和音、クロマチック進行なんかはそれらを応用したと考えることができますね。

6. 「切なさ」はコードだけで決まらない

「じゃあ、コード進行が切なさを決めているってこと?」と思った方。ちょっと待ってください。

例えば同じ、C → F → Fm → Cでも、

パターンA:高音域で明るいピアノ→ それほど切なくない

パターンB:ゆっくりしたテンポ+低いボーカル+長いリバーブ→ かなり切なく聴こえる

という違いが生まれます。

つまり、「コード進行だけがそのまま感情に直結するわけではない」ということです。

実際にはコード進行以外にも、
× メロディ
× リズム
× 音域
× 音色
× テンポ
× ダイナミクス

などの複合的な事象によって感情が形成されます。

7. メロディが「切なさ」を決める

例えばコードが同じCであっても、

E → D → Cと下降するメロディと、

C → D → E → Gと上昇するメロディでは印象が変わります。

特に、半音・全音で下降するメロディは切なさを作る強力な要素になります。

つまり、「切ないコード」を探すより、「切なく聴こえる音の動き」を探すことが「切なさ」を出すためには重要なのです!

8. 実際に「切ないコード進行」を作ってみる

さて、ここまでで「音楽的な切なさの原因」を色々探ってみましたが、今度はそれを実践してみましょう!

例えば、

パターン① 王道系C → G → Am → F

パターン② 哀愁系C → G/B → Am → F

パターン③ 借用和音C → F → Fm → C

パターン④ より浮遊感を出すCmaj7 → G/B → Am7 → Fmaj7

を考えてみましょう!

そして、どこを変えると「明るい」→「切ない」に変化するのかを試してみると良いですね!

9. 「切ないコード」を作るための考え方

最終的に覚えてほしいのはコード進行そのものではなく、

① 明暗のコントラストを作る

明るい → 暗い → 明るい

② 半音の動きを使う

A → Abなど

③ 解決を少し遅らせる

完全に終わらせない

④ メロディを考える

コードだけで感情を作らない

⑤ 音域・音色を考える

同じコードでも音色で印象が変わる

という音作りの考え方です。

10. まとめ

今回の内容をまとめると、「切ないコード」という魔法のコードが存在するわけではなく「切ない変化」が存在するということが言えそうですね!

切なさは、

短3度
+ 半音の動き
+ 緊張と解決
+ 借用和音
+ メロディ
+ 音域・音色

などが組み合わさって生まれます。

音楽理論は「コードを覚えるための学問」ではなく、「なぜこの音楽がこう感じるのか」を理解するための道具でもあるのです!

これを機に音楽理論とそのわけを探究してみると面白いかもしれませんね。

ちょっと寄り道:切なさを物理的に考えてみよう!

音は所詮物理的な現象です。なので物理学的に「コードの切なさ」を考えてみたいと思います。

ただし、結論から言ってしまうと、「切なさ=この物理現象が原因」と一つに決めることはできません(音楽の感情には、聴覚の物理・脳の知覚・学習した音楽文化が複合的に関わります)。

そのうえで、「切なく聴こえる音」を物理→聴覚→音楽の順に分解してみましょう!

「音」は空気の振動

音そのものは、空気の圧力変化です。

例えば、440Hzの音なら、1秒間に約440回、空気の圧力が周期的に変化することで、私たちはA4の音として知覚します。

ところが、実際の楽器の音は単純な正弦波(サイン波)ではありません。

「基音+2倍音+3倍音+4倍音+……」という複数の周波数成分を含んでいます。

つまり、コードとは単純に「3つの音が鳴っている」のではなく、物理的には、複数の周波数成分が同時に空気を振動させている状態なのです。

ここから「切なさ」を物理的に考えられます。

「うなり(Beat)」

物理的に非常に面白いのがこの「うなり」という現象です。

例えば、440Hzと442Hzの音を同時に鳴らすとします。

この周波数が微妙に異なる2つの波を同時に鳴らすと、音の周期が少しずつズレるため、音が「大きくなる → 小さくなる → 大きくなる……」という周期的な変化が生まれます。

その周期は、fbeat =∣442−440∣=2Hzです。

つまり、1秒に2回程度、音量が揺れることになります。

これを「うなり」と呼びます。

コードの中では何が起きている?

2つの周波数が近いと、周波数差による干渉が起こります。

特に音程が非常に近い場合、音が揺れたり、粗く感じたり、不安定に感じたり、濁って感じたり、といった知覚が生まれます。

これは音楽理論でいうところの「不協和」の物理的な側面の一つです。

ただし「不協和=切ない」ではありません!

例えば、CとC#は非常に近い音なので、強い緊張感を作りますが、これを「切ない」ではなく、「怖い」「不安」「不穏」「痛い」と感じることもあるはずです。

つまり、物理的な粗さは「切なさ」の直接的な原因というよりも、むしろ感情的な緊張を作る材料と考える方が適切なのです。

もう一つ重要なのが「倍音」です。

例えば、Cの音を鳴らしたとき、f, 2f, 3f, 4f,…という倍音が含まれます(fは周波数)。

別の音を同時に鳴らすと、その倍音同士も重なります。

例えば、C + Eなら、

Cの倍音

│

│      │

│  │   │    │

└────────────

Eの倍音

│

│    │

│ │  │     │

└────────────

のように、それぞれのスペクトルが重なり合います。

この重なり方によって、協和的・明るい・柔らかい、あるいは粗い・緊張した・濁ったといった音響的な違いが生まれます。

「明るい → 暗い」という変化

例えば、C → Cmを考えます。

C:C ─ E ─ G→Cm:C ─ Eb ─ G

真ん中の音が半音下がるという変化によって、ほぼ同じ音響構造なのに、全体の響きが変わるという現象が起こりますね?

つまり、「切なさ」は、暗い音そのものより、明るい状態から少しだけ暗い状態へ変化することによって強く感じられる可能性があるのです!

これは「予測」とも関係します。

実は、人間の脳は、音楽を聴くと次に来る音をある程度予測しています。

例えば、G → Cの流れなら、「あっ次はCに行きそうだな!」と感じるわけです。

ところが、G → Cmのように予想とは少し違う方向へ進むと、「あれ?裏切られた!」という感覚が生まれます。

これが予測誤差です。

そして、「予測→少し裏切られる→緊張→その後に解決」という流れが、強い感情を生みやすいわけですね。

思い返してみれば、私たちが悲しみや怒りを感じる時というのは、自分の予想に反してどうにもできない無力感を感じる時が多いのではないのでしょうか。

みなさんもこんな経験はありませんか?

小学生や中学生の頃、学校の先生に自分の行いを怒られて悔しくて泣いてしまった」みたいな経験。

筆者はあるのですが、これは「自分を正当化したいけどできないという無力感や悔しさに対して、悲しいとか悔しいとかそういう感情が出てきてしまっている」と考えられると思います。

「切なさ」は時間的な変化から生まれる可能性が高い

例えば、Cmを単独でずっと鳴らすよりも、C → Cmと変化させた方が「切ない」と感じやすいのは、絶対的な音そのものではなく、変化量を聴いているからです。

つまり、感情=f(音そのもの)だけではなく、感情≈f(音の変化,予測,文脈)と考えた方が実態に近いわけですね!

これによって、例えばA → A♭のような半音下降が特に強力なのも説明できます。

この二つの音の周波数比を考えると、だいたい1.0595なので、隣接する音は約5.95%の周波数差を持ちます。

つまり、この二つの音同士はかなり近いけど、明確に違うという絶妙な距離にいるわけです。

そのため、A→Abという変化は、「ほとんど同じものが、ほんの少し変わった」という強い感覚を作ります。

これがクリシェや、IV→IVmのような進行が持つ独特の哀愁につながります。

「音域」も物理的に関係する

音域によって、人間の聴覚に対する聞こえ方が変わります。

例えば、低い音は、波長が長い、振動周期が遅い、高い音は、波長が短い振動周期が速いという違いがあります。

そして音域によって、倍音の聞こえ方やマスキング、聴覚感度も変化します。

だから、同じコードでも、高音域で軽く弾くのと低音域でゆっくり鳴らすのでは、感情的な印象が大きく変わります。

物理的なまとめ

結論としてはやはり「切ない音」が存在するというより、「切ないと感じる変化」が存在するということです。

「そのコードそのものの状態」ではなく「相対的な変化」に注目するのが「切なさ」を勘あげる上では重要だということですね!

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