マスキングとは?DTMで音が埋もれる本当の理由を徹底解説
「ボーカルが聞こえないから音量を上げる。」
「ギターが埋もれるからEQで高域を上げる。」
このような調整を繰り返していると、最終的には全体がうるさいだけのミックスになってしまいます。
その原因のほとんどがマスキング(Masking)です。
マスキングを理解すると、
- ボーカルが自然に前へ出る
- 楽器同士が分離して聞こえる
- EQを極端に使わなくて済む
- ミックス全体がクリアになる
ようにできます!
この記事では音響学・心理音響・数学まで含めて、マスキングの仕組みを詳しく解説していきます!

目次
- マスキングとは?
- マスキングが起こる仕組み
- 人間の耳は周波数分析器
- なぜ音量を上げても聞こえないのか
- dBで考えるマスキング
- マスキングを解決する7つの方法
- 実践例
- おすすめプラグイン
- まとめ
マスキングとは?
マスキングとは、ある音が、別の音を聞こえにくくしてしまう現象のことです。
例えば
- ボーカルとギター
- キックとベース
- ピアノとストリングス
が同じ周波数帯域を多く含んでいると、
実際には両方の音が鳴っているにもかかわらず、一方が埋もれて聞こえます。
ここで重要なのは、音が消えているわけではないということです。
人間の耳が2つの音をうまく分離できなくなっているだけなのです。
マスキングが起こる仕組み
音は空気中では単純に重なります。
例えば、ボーカルx_v(t)、ギターx_g(t)という入力信号だったとすると、耳に届く音はx(t)=x_v(t)+x_g(t)という単なる波の足し算になります。
音は物理的にはただ足し算されているだけなのです。
フーリエ変換するとどうなる?
フーリエ変換とは周波数成分に着目して元の波を分解する変換です。
時間波形をフーリエ変換によって周波数に変換すると、X(f)=X_v(f)+X_g(f)となります。
つまり、フーリエ変換して、それぞれが周波数スペクトルになったとしても、先ほどと関係性はかわらずに、両者は加算されるということです!
この二つの周波数が重なった部分でマスキングが発生してしまいます。

人間の耳は周波数分析器
実は、耳の中では、蝸牛(かぎゅう)という器官が周波数ごとに振動しています。
つまり、耳そのものがFFT(高速フーリエ変換)のような働きをしているのです!
しかし、残念ながら、完全に細かく分離できるわけではありません。
臨界帯域(Critical Band)
ここが重要なポイントです。
耳は近い周波数を一つのグループとして処理する性質があります。
この帯域を臨界帯域(Critical Band)と呼びます。
例えば、1000Hz付近では約150Hz程度の幅をまとめて認識します。
つまり、1000Hz、1050Hz、1100Hz、1150Hz、の音は耳から見るとほぼ同じ場所で鳴っているように感じるのです!
その結果、1000Hzの音が1050Hzを隠したりしてしまうのです(片方がもう片方を隠してしまう)。


なぜ音量を上げても聞こえないのか
初心者が最もやりがちな失敗に「聞こえないから音量を上げる」というのがあります。
例えば、ボーカルとギターでボーカルが聞こえないから+3dBとすると今度はギターが埋もれます。
「じゃあ、またギターをあげればいいか」なんて考えて、ギターも+3dBしてしまって最終的に全部うるさいだけの音源になってしまう。。。なんてことはよくある話です。筆者もよくやっていました(笑)
これはラウドネス競争がトラック内でも起きている状態です。
ラウドネスについては、こちらの記事で詳しく解説しているのでご覧ください!

dBで考えるマスキング
例えば、ボーカル-12dBFS、ギター-12dBFSだったとします。
エネルギーとして加算するとP=P1+P2となって、仮にP1とP2が同レベルなら約+3dBになります。
つまり、耳には、ボーカルとギターの音が、より大きな、まとまった一つの音として認識されてしまうのです。
これによって、どちらかの特徴が埋もれてしまうというわけですね。
倍音でもマスキングは起こる
例えば、100Hzのベースには、100Hz、200Hz、300Hz、400Hz、500Hzという倍音があります。
キックも60Hz、120Hz、180Hz、240Hzという倍音を持っています。
実際には低域だけではなく倍音同士でも音がぶつかっているので、EQでキックの基音となる60Hz〜120Hzだけを削っても改善しない場合があります。
時間方向のマスキング
マスキングは周波数だけではありません。時間方向にも起こります。
例えば、スネアが最初に鳴って、その直後にボーカルが来ると、耳は一瞬スネアの音のエネルギーを保持している状態になります。
すると、耳はスネアのエネルギー(振動)をまだ保持しているので、ボーカルの最初が聞き取りづらくなってしまいます。
これを時間マスキング(Temporal Masking)と呼びます。
前方マスキング
大きな音が小さな音の前に鳴ると、その直後になる小さい音が聞こえにくくなります。
これを前方マスキングと呼びます。
後方マスキング
逆に、わずかな影響ですが、小さい音が鳴った直後に大きい音が鳴ると、最初に鳴った小さい音が聞こえにくくなります。
これを後方マスキングと呼びます。

EQだけでは解決できない理由
EQは周波数を削る道具ですが、削りすぎると楽器本来の音色まで失われます。
例えば、ギターから2kHzを10dB削ると、確かにボーカルは聞こえるようになりますが、今度はギターがこもって聴こえるようになってしまいます。。。
なので、マスキング問題はEQだけを使えば全て解決というわけでもないのです。
EQについては、こちらの記事で解説していますのでご覧ください!

マスキングを解決する7つの方法
さて、ここまででマスキングの種類をいろいろ見てきましたが、ここからはそのマスキングをどうすれば解消できるかを考えていきましょう!
① EQ
複数の音の競合する帯域(被っている周波数帯域)だけを1〜3dB程度軽く調整します。
大抵はカットです。
② パンニング
左右へ配置すると、耳は別々の位置として認識します。
つまり、空間を使って音を分離することができるのです。
EQを使うと音痩せしてしまうというときに役立ちます。
③ オクターブ変更
同じメロディでも1オクターブ上げるだけでほぼ解決することがあります。
よくあるのは「ボーカルのメロディー帯域付近に音がいっぱい集まっていて、ボーカルが埋もれてしまう」とうう状態です。
例えばピアノのメロディーを1オクターブ上げるだけでそれが解決できたりするのです。
マスキングの解決はアレンジの段階ですでに始まっていると言っても過言ではないと思います。
④ 演奏タイミングをずらす
同じ周波数帯域になりやすいピアノとボーカルですが、これらを同時に鳴らさないだけで、格段にそれ俺の音が聞こえやすくなります。
オブリガートに徹したり、隙間を作ったりすることで、タイミングはずらせます。
⑤ ダイナミックEQ
ダイナミックEQはEQ処理を時間変化に応じてすることができるイコライザーです。最近のパラメトリックEQには大抵この機能がついています。
ボーカルが歌う時だけギターの3kHzを2dB下げるように時間変化させることで、その場所以外ではギターの周波数は変わらずに、ギターが音痩せするのを防げます。
普段は元の音色なので自然です。
⑥ サイドチェイン
サイドチェインとは、特定の入力信号があった場合に、それに反応してエフェクトをかける機能です。コンプレッサーで主に使います。
例えば、ボーカルが入力された瞬間だけ伴奏を少し下げるようにすると声が聞こえやすくなりますよね。そしてそれ以外のボーカルが入っていない場所では、伴奏の音量は元通りというわけです。
これはNetflixやYouTubeのナレーションでもよく使われています。
⑦ 音色選び
これまで色々言ってきましたが、なんやかんや、これが一番重要かもしれません。
例えば、鋸波シンセとディストーションギターは倍音構成が非常に似ています。
だから、何もしなくてもマスキングしやすいです。
逆に、エレピとアコギは倍音構成が違うため共存しやすくなります。
このように音色ごとの倍音構成に着目することで、EQをしなくてもマスキングしにくい構成にすることができるのです!
こればっかりはアナライザーで確認しながら見ていくしかないので、面倒ではありますがね。。。

実践例
ボーカル × ギター
ボーカルの存在感は2〜4kHz、ギターも2〜4kHzが強いです。
そこで、ギターだけ3kHz付近を2dB程度抑えると、ボーカルが自然に前へ出ます。
キック × ベース
キック50〜70Hz、ベース80〜120Hzというように、役割を分けるだけでも低域はかなり整理されます。
ストリングス × パッド
どちらも中高域にエネルギーが多いため、広がり(ステレオ幅)や演奏タイミングを工夫すると、EQだけでは得られない分離感を作れます。
おすすめプラグイン
最近はマスキングを自動で解消してくれるプラグインも存在しています。
本当は自分の耳で聴いて、そして頭で考えたほうが良いとは思うのですが、時短にもなるのでおすすめです。
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まとめ
マスキングは「音量」ではなく「役割」の問題です。
マスキングを解決する本質は、どの楽器に、どの帯域・どのタイミング・どの空間を担当させるかをあらかじめ設計することにあります。
実際のミックスでは、EQは「最後の微調整」であることも少なくありません。
まずはアレンジ、音色選び、オクターブ、パンニングで役割を整理し、それでも残る競合をEQやダイナミックEQ、サイドチェインで補正します。
誰かが言っていて印象的だと思った例えがあるのですが、『ミックスとは「整形」ではなく「お化粧」なのです。』この言葉を胸に刻み込んでおきましょう。
この考え方を身につけると、「音量を上げるほど聴きやすくなる」という発想から脱却し、少ない処理でもクリアで立体感のあるミックスを作れるようになるはずです。




